(その3)シンクロ機構の特許戦略
シンクロ機構の原理を特許化して、世の中の役に立つ物を作ろう・・・
この当初の決意どおり、稼農氏は、シンクロ機構の実用化を目指して、日夜開発に取り組むと共に、シンクロ機構に対する特許の取得にも力を入れた。しかも、日本だけでなく、三輪車の利用が多い、又は利用が増えると思われる国や、エコ意識が高い国での特許取得を目指した。
開業当初の2009年に、まず、日本国への特許出願を行い、翌2010年1月に、前年の特許出願に新たな開発の成果を加えてPCT国際特許出願を行った。
さらに、PCT国際特許出願に対する国際調査報告の結果から特許される可能性が高いとふむと、稼農氏はすぐに日本国への国内移行手続や審査請求手続を行い、早期審査制度も活用して、出願からわずか7ケ月ほどで日本国における特許を取得した(特許第4567813号)。続いて、欧州共同体を含む海外7ケ国への国内移行手続も実施し、2013年にはアメリカ、欧州、中国、ベトナムで特許を取得し、さらに2014年には、フィリピンでも特許を取得することに成功した。注)
注釈)PCT国際出願とは、特許協力条約に基づく特許出願のことである。ひとつの手続で条約に加盟する全ての国に同日に特許の申請をした取り扱いとなり、出願された発明に対しては、先行技術の調査(国際調査)が行われ、その調査結果や特許性に関する見解書が出願人に送付される。しかし、あくまでも出願の手続の便宜をはかる目的の制度であり、一定の期間内に、特許を取得したい国毎に、国内移行の手続き(書類の翻訳を含む。)を行う必要がある。
特許された発明は、着想に基づき具現化されたスイング機構を備える多輪式車両を対象とするものである。
三輪車に限らず、乳母車、シルバーカー、荷物の運搬用の台車などの四輪車両にも及ぶ権利となっている。
また、スイングアームを連動させるために必要となる部材や部材間の関係に関する要件がやや細かく特定された範囲ではあるが、複数とおりの試作品を反映させた詳細な実施例のほか、様々な応用例や変形例も含む広い範囲に対する独占権となっている(下の図を参照。)。
自転車開発に携わるより前から発明者として多数の特許出願に関わった経験から、稼農氏に知的財産を保護することへの高い意識があり、以前からお付き合いのあった経験豊富な弁理士のサポートがあったとはいえ、多数の国への特許申請手続きは、小さなベンチャー企業(当時は個人事業者)にとって相当な負担となったはずである。
しかし、オリジナルの技術に対する自信、そして絶対に受け入れられるモノを作りあげてみせる・・という信念が、負担をしのぐ力になったように思う。
「我々のような小さな企業がすべてのことを自力でやれるはずはなく、他の企業と提携したビジネスを視野に入れて事業活動をしなければならない。そういった企業との交渉ごとのためには、オリジナルの技術を持っていると言えることが必要であると考えました。」(稼農氏 談)
という言葉にも、もの作りに賭けた人の見識を教えられた思いがした。
実際、各国での特許が取得できたことは、大変良い追い風になり、次のような副次的効果も得られたという。
「シンクロ機構という一つの得意技(特許技術)によって、我々の開発能力を想像以上に高く評価してもらえることにも気づきました。この得意技を見て、もしかしたら、自分たちが考えつかない「次の一手」を見せてくれるかもしれない・・・と、ベンチャーとしての将来性に期待感をもってくれ、特許技術とは関係のない技術にも目を向けてくれました。」(稼農氏 談)
特許取得に成功し、その特許技術を核とする具体的な製品を完成させたところで法人へと移行したケイズ技研株式会社は、開発の成果物をエンドユーザーに提供するステージに進む一方で、さらに「次の一手」を視野に入れた開発にも取り組んでゆく方針とのことである。
さらに、「規模の大きさで決めるのではなく、“ハートが通じる”ことが一番大事」(稼農氏 談)という方針で繋がった大手企業との共同開発の話も順調に進んでいるそうである。
「私たちが作れるもの」ではなく、「作らねばならないもの」を作るのだ・・・
この信念に支えられた開発によって、次は、どんな発明が生まれるだろうか・・・
問い合わせについて
この記事で紹介したシンクロ機構や開発製品について、詳細な確認や問い合わせをしたい・・・
という方は、下記のリンクより同社サイトにアクセスして連絡先等をご確認下さい。
問い合わせの際に「パテントわっとを見まして・・・」と言っていただけると嬉しいです!!